世界へのチャネルは突然開く
いつも選手面談は突然やってくる。
ある晩、中学2年生のU-15 選手からメールが届いた。
「俺、来週からスペインにサッカーに挑戦したいです」
どうしても海外サッカーを肌で感じたいと。
私 「よし。挑戦したい気持ちはよく分かった… 一度会って話そうか」
早稲田ユナイテッドでは毎年トップチームの選手が海外挑戦を試みるが、決して簡単な世界ではないことはよく理解している。
気持ちを確かめたかったので、じっくり話を聞こうと思った。
私 「パスポートは持ってるの?」
彼 「無いです」
私 「スペイン語は話せるんだっけ?」
彼 「話せないです」
私 「英語は話せるんだっけ?」
彼 「話せないです」
私 「どのくらいの期間行くつもり?」
彼 「3ヶ月くらい行きたいです!」
私 「……」
彼 「来週からでも行きたいです!!」
私 「………分かった。それじゃあ、お父さんかお母さんに一度話をしよう。バレンシアへのスペイン留学を手伝ってくれる人(トップチーム監督)も一緒に紹介するから」
あまりに純粋で大きな意欲をぶつけられると、人は適切な回答が出来なくなるのだと実感した…
自分も1人の起業家として無謀な挑戦を何度も試みてきたつもりだが、彼の無謀な直球を受けて、色々と考えさせられるものがあった。
最も大切なのは親の覚悟なのかもしれない
その後、彼と彼の母親、スペインバレンシア留学の担当と、私の4人で、都内のカフェで話をした。
正直、自分も留学担当者も、事前の打ち合わせでは半信半疑であった。
彼の気持ちは本気かもしれないが、あまりに無謀過ぎる。
親の気持ちからすれば、スペイン語も英語も話せない、その準備すらしようとしていたのか分からない息子をきっと止めるだろうと…
自分も2人の子供の親として、高校卒業後や翌年の夏休みのタイミングなどで彼を説得する方法すら考えていた。
しかし、話は全く違う展開へ…
彼の母 「私も昔、海外(オーストラリア)で生活していたんです」
…… それなら海外生活で得られる体験価値もよく理解されているはずだ。
ちょうど、留学担当者もオーストラリア育ちということもあり、しばらく話題はオーストラリアへ。
すると、彼の母親からこんな言葉が出てきた。
彼の母親 「私はこのスペイン留学(3ヶ月)で息子が死んでも構わないと思っているんです」
…… ここからは、「止める」や「延期する」という提案が我々の選択肢から消えた。
自分も留学担当者もそこから姿勢を変えた。
留学担当者 「もしかすると、このタイミングで行かせない方がリスクなのかもしれないです」
私も同感だった。
このタイミングでしか得られない体験価値が確実にある。
無事にスタートを切ったスペインサッカー留学
その後、話はトントンと進み、無事に現地でのスペインサッカー留学がスタートした。
日々の彼のバレンシアでのサッカー動画も送られてくる。
最初は頻繁に送られてきた彼からのメールも、少しずつ間隔が空き、今ではほぼ送られてこない。
環境に適応したのだろうか。
すると彼の母親からこんなメールが届いた
岩崎コーチ
日頃より大変お世話になっております。
バレンシアの皆さんには本当に優しくして頂いていて、心より感謝申し上げます。
LINEも既読がなかなかつかないところをみると、すっかりバレンシアの生活が楽しいのではないかと思います。
私としては、楽しいだけでは残念で、通用しない苦しみを味わってほしいと思っているところです。
ホームシックにもならず、これからもならないと思う!と次男が言ってます。それはバレンシアの皆さんのおかげだと思います。
オフの時間に地中海へ連れて行ってもらったようです。地中海で泳いだり、浜辺でサッカーをして楽しかったと言っていました。
取り急ぎ、地中海の写真と共に、お礼を申し上げます。
砂浜を歩く子ども達の後ろ姿を見て
来た道は変えられないけれど、進む未来はいくらでも変えられるんだな
と思いました。
決断、勇気、強い心がなければ変えられませんが!
“彼の母親”
進む未来はいくらでも変えられる
夢や挑戦へのエネルギーは非常に大きい。
無謀なチャレンジかもしれないが、本人も親も本気なら、そこから描き出す未来を止める理由は何もない。
早稲田ユナイテッドは組織として「世界基準」をクラブの柱に掲げていることもあり、ドイツ、スペインなどのヨーロッパ、からブラジル、オーストラリア、アメリカなど、世界へのチャネルを構築している。
トップチームも毎年のように海外挑戦者が入っては出ていき、それによる戦力の不安定(戦力ダウン)は毎年起こる問題だが、育成クラブとして人の成長を最優先する。
これからも、彼らの大きな夢を受け止めるために、クラブとしても器を大きくしていかないといけない。