著者: 炭谷俊樹
出版社: PHP研究所 (2013/5/10)
ページ数: 130 ページ
フォーマット: Kindle版
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詰め込みでも放任でもなく、子ども自身が各々の目標や課題を決めて主体的に学んでいく。
そんな「探求型の教育」を自ら創り、実践されてきたラーンネット・グローバルスクール(LGS)代表の炭谷氏。
そもそもなぜ、このような教育の必要性を感じたのでしょうか。
何がきっかけだったのでしょうか。
ビジネスマンとしてデンマークへ
著者はコンサルティング会社のマッキンゼーに勤めていたころ、仕事の関係でデンマークに移住しました。そこで出会ったデンマーク人はプライベートではゆったりとしているものの、仕事では非常に高いコミュニケーション力や論理的思考力を発揮し、物事を効率的に進めていったそうです。
当時この部分に日本人とのギャップを感じ、理由を探っていく中で、どうやら子どものころの教育に違いがあるらしいことが分かってきたと述べています。
デンマークでは子どもの頃から自分の意見をしっかりと持つことを奨励され、それを論理的に明確に伝えるという習慣を作っていきます。ホームルームでは先生も子どもも机のまわりに対等に座り、一人一人の異なる意見を尊重しながら議論しています。(引用)
確かに日本の授業は「前を向いて黙って聞く」という座学中心で、みんなで輪になって議論をしたり対話をしたりという授業は多くありません。また、日本だと、人と違う意見を言えば協調性に欠けるとか社会性がないだとかで浮いてしまいます。そういう雰囲気がクラス内に漂っていることが多いですよね。その結果、善し悪しは別として、考えや行動が同質化、平均化していきます。
著者はビジネスマンとして赴任したデンマークで、偶然にも教育について日本との違いに気づくこととなったのでしょう。
議論すること自体、立派な勉強
少し私見を挟みますが、そもそも日本は議論する時間を勉強と捉えていない風潮があるように思います。教科書があり、先生がいて、授業を聞いてノートをとって覚える。これが勉強であると。
しかし、議論は「人相手の実用的な思考力を鍛えるトレーニング」として非常に価値のある勉強といえます。みんなの前で自分の意見を言うとなると、人間無意識のうちに筋道を立ててできるだけ分かりやすく話そうとしますね。自然とそういうプレッシャーがかかります。すると、思考(頭)の方もそれに合わせて論理的に回転しようと頑張ります。だから論理的思考力、すなわち「人相手の実用的な思考力」が鍛えられるわけです。議論はいわゆる「考える力」の勉強に最適なのです。
デンマーク人の高いコミュニケーション力や論理的思考力のルーツが、子どものころの議論中心の教育にあるのではないかという著者の推察にはとても共感します。日本の教育も、受身の授業と議論の授業のバランスをとっていく必要があるでしょう。
さて、仕事を通してデンマークの教育に関心を寄せていった著者は、娘さんを現地の幼稚園に入れ、さらに教育への思いを強くしたと述べています。
デンマークの幼稚園で娘が変わった
その幼稚園では、一人一人が自分のやりたいことを自分のペースでやるというのが基本で、一つ一つのことを子どもに集中してやり遂げさせることで達成感を得させるという方針を持っていました。(中略)先生の役割は子どもの興味がわくように手本をみせる、また興味の対象か極端に偏らないようにバランスをとるなど、あくまで側面支援に徹します。(引用)
いわゆる「モンテッソーリ教育」だと著者は述べています。大人は強制するのではなく、子どもが集中して何かをやり遂げられるよう見守り、側で応援に徹したほうが子どもはより大きな達成感や満足感を得ることができるという考え方です。
この幼稚園に通ううちに、はじめは消極的で引っ込み思案だった著者の娘さんに明るい変化が現れてきたということです。また、先生もその過程で、例えば一人でいても「どうしてお友だちと遊ばないの」とプレッシャーをかけることは一切なく、逆に著者に対して「非常によく人のすることを観察している。そのうちなんでも上手にできるようになるはず。まったく心配はありません」と声かけをしたそうです。その後、娘さんはどんどん積極的になり、一年後にはクラスの人気者になったり、どんな質問に対してもはっきりと自分の意見を述べられるようになったり、わからないことに対しては積極的に質問するようになったということです。
性格や言動にプラスの変化をもたらす教育。これは誰がなんと言おうと、その子にとって良い教育環境だったと言えますね。
著者は日本に帰国後、良い幼稚園が見つからなかったこと、阪神大震災、オウム事件、インターネットの出現など様々な経験を経ていくうちに、ついに「学校を作ろう」と決意されたとのことです。
いずれにせよ、異国の地デンマークにおける仕事上の経験、そしてご自身の子どもを通した経験の2つが、当時会社員だった著者の心に「第3の教育の必要性」を芽生えさせたのでしょう。
多種多様な教育サービスが存在する現代において、サービスそのものについては大いに情報が得られますが、一方で、そのサービスが生み出された背景については表面に出されることが多くありません。その意味で、本書は貴重な一冊と言えます。
次回は、引き続き本書から子育てにおいて大切な「親の姿勢」について学んでいきます。(第3回へ続く)
最後にひと言
心や言動にプラスの変化をもたらす環境。それが、その子にとって良い教育なんだろう。
小さいころの「対話」、大きくなってからの「議論」。これが「考える力」を鍛える。どの国も一緒。
評・WISE編集部
[youtube]http://youtu.be/VO1AYWYO2e8[/youtube]
【連載】 『第3の教育』より ~きっかけはデンマーク~